クラウドの定義〜グーグル、セールスフォース、マイクロソフト、富士通、日立、NEC、NTTデータ、IBM

日経ストラテジーでIT大手8社にクラウドの定義など基本的な質問をまとめた記事。
各社の考え方の違いが分かって面白い。

富士通 代表取締役副社長
富田達夫(とみた たつお)氏
「クラウドに“寄せる”ことでコストは下がる」富士通・富田副社長 | 日経 xTECH(クロステック)
Q1クラウドの定義
A1
システム運用のリソースを集約して効率を上げること。
クラウド」の定義は難しい。クラウドは言葉としては新しいが、富士通は従来からデータセンター型のサービス、アウトソーシングの受託をやってきている。これらも一種の「クラウド」だと考えている。
定義として基本になるのは、顧客企業から物(コンピュータ・ソフトウエア・通信機器など)を見えないようにして、その上にサービスを載せて、顧客企業が目を向けない運用上のリソースについての自由度を上げていくこと、だと思っている。
富士通は「パブリッククラウド」「エンタープライズクラウド」を分類している。パブリックは米Google(グーグル)や米Amazon(アマゾン)など一般向けのもの。エンタープライズは、置き場所が顧客企業かデータセンターかは別として、顧客企業の物として存在するものだ。

Q2他社に比べた優位点
A2
垂直統合的に全てを作ってサポートできる力。
富士通は、(基幹業務にかかわる)ミッションクリティカルなシステムを含めて、お客様と向き合いながら、一気通貫でやってきた。東京証券取引所に納めた新システム「arrowhead(アローヘッド)」もその象徴的な例だ。

日立製作所 情報・通信グループ経営戦略室事業戦略本部本部長
香田克也(こうだ かつや)氏
「クラウドでもリソース占有を可能にする」日立・香田氏 | 日経 xTECH(クロステック)
A1
大幅に拡張可能なコンピュータ環境をネットワーク経由でサービスとして利用するスタイル。
日立では、クラウド関連サービスを大きく3つに分けている。プラットフォームリソースをサービスとして提供する「ビジネスPaaSソリューション」、アプリケーション機能サービスとして提供する「ビジネスSaaSソリューション」、顧客企業内でクラウドシステムを構築・運用する「プライベートクラウドソリューション」の3つだ。これらを適材適所で提供していく。
ただし当面の間は、3つ目の「プライベートクラウド」の比率が大きくなると考えている。

A2
クラウド環境でありながらリソース占有など高度な機能を提供し、「信頼性のあるクラウド」を作れること。
日立には、長年お客様のシステム構築・運用で培ってきたシステム・インテグレーションの実績がある。特に、サーバー製品や運用管理ツールで信頼性の高いものを持っている。これらをクラウド環境に取り込むことを差異化のポイントとしている。「信頼性あるクラウド」というのが我々のビジョンだ。
一般にクラウド環境では、多数の利用者がリソースを共有して、リソースの奪い合いが起きる。そのため、大量のデータ処理をする場合に終了予定時刻が分からないことがある。Virtageの機能を使えば、終了予定時刻を正確に見積もれる。クラウド・コンピューティングでありながら、従来の「ホスティングサービス」などに近い状況を作れるわけだ。

NEC 取締役 執行役員常務
藤吉幸博(ふじよし ゆきひろ)氏
「クラウド上の基幹情報システムを使っているのはうちだけ」NEC藤吉氏 | 日経 xTECH(クロステック)
A1
標準化されたアウトソーシングの形態。
多様な端末からネットワークを介して、IT(情報技術)をサービスとして利用するのがNECクラウドサービスだ。これは、初期投資の抑制や、導入のスピードアップにつながる。
ユーザー企業にとって従来のアウトソーシング(外部委託)と何が違うかというと、従来のアウトソーシングは「標準化」がされていない。クラウドサービスでは、アプリケーション・ミドルウエア・ハードウエアなどで、当社が用意した標準化されたITを使うということが重要だ。
これとは別に、パブリック・クラウドとプライベート・クラウドという区別があると思う。今世の中でよく言われているクラウドは、米グーグル(関連記事)、アマゾン、セールスフォース・ドットコム(関連記事)などだが、これらは、パブリック・クラウドに当たる。NECは、どちらかと言えばプライベート・クラウドのほうに力を入れたいと考えている。基幹情報システムのクラウド化はまだこれからだろうが、NECとしてはこの領域に焦点を当ててやっていく。

A2
自社の基幹情報システムで実績がある。
NECは自らクラウド環境で、NECグループ向けの財務・会計システムを構築した。これに伴うグローバルでのデータ統合・コードの標準化や間接業務プロセスの改革の効果も合わせて、2012年度までに間接部門コストを2割以上削減することを目標にしている。システムに関するコストもおおむね2割程度安くなる見込みだ。
この本社ビルの1階に「クラウドプラザ」を開設し(関連記事)、この新システムのデモを公開している。もちろん、本物の会計データは公開できないので、模擬的なデータを使ってはいるが、クラウドとは何かを目に見える形で示している。「基幹系」で自社の実績があって外部に公開できるというのは、他社にはない優位点だと考えている。
今のところ、クラウドの活用はCRM(カスタマー・リレーションシップ・マネジメント)、「フロント系」を中心に進んでいる。NECはもちろん「フロント系」でもサービスを提供しているが、それ以外の基幹系に注力する考えだ。基幹系のクラウドサービスを打ち出したのは2009年7月で、他の大手ベンダーより先行したという自負がある。「基幹系」にも色々あるが、会計・財務・人事など、ある程度どの企業にも共通する部分から始めている。それ以外の、企業独自の「戦略的」な部分、具体的には、生産管理システムなどの分野は、まだクラウドという形にするのは早いと思っている。

NTTデータ 代表取締役常務執行役員 ソリューション&テクノロジーカンパニー長
山田伸一(やまだ しんいち)氏
「コミュニティー・クラウドで強み」NTTデータ山田氏 | 日経 xTECH(クロステック)
A1
米NISTの定義に準じる。仮想化・柔軟性などがポイント。
NTTデータは、基本的には米NIST(国立標準技術研究所)が考える「クラウド・コンピューティング」の定義を踏襲する。公式な見解を問われた時は、いつでもNISTの定義を使わせていただいている。すなわちクラウドとは、「仮想化」された「リソースプール」を、「迅速な柔軟性」でデリバリー(提供)・拡張できる「従量課金体系による」サービスだと考える。

A2
業務受託も含め「持たない経営」を支援できる。
NTTデータはシステム・インテグレーションが主力の企業。特定の技術や提供方式にこだわるのではなくて、お客様にとって一番メリットが出る形で、様々な技術を組み合わせた「ハイブリッド」なクラウドを提供できるというのが特徴になると思う。
NTTデータグループには、コールセンター子会社のほか、電子商取引の受注・決済・配送などを請け負うウェブプロデュース(東京都豊島区)など、BPO(ビジネス・プロセス・アウトソーシング)を請け負える会社がある。こうしたものも組み合わせながら、ITだけではない業務オペレーション全般において、「持たない経営」を支援できるのが当社の強みだ。
一般に、クラウドの活用についてコストのメリットがよく言われる。コンピュータを共用することで、低コストで利用できるという、そのメリットは確かにある。ただし、日本企業だけを見ると、月末、年末や年度末など、コンピュータ利用のピークはどこでもだいたい一緒になる。日本だけで平準化するのはなかなか難しい。米グーグルさんなどの場合は、世界中にサービスを売ることで強みを出している。率直に言って、我々は海外にどんどんサービスを売ってこうした強みを出せているかというと、現状ではそこまで行っていない。NTTデータはその部分で圧倒的な強みは出せないが、ほかにできることがある。
例えば(4つの展開モデルのうち)コミュニティークラウドについては、NTTデータが強みを発揮できるところだ。当社のグループには(東証マザーズ上場の)NTTデータイントラマートという企業がある。企業向けのウェブシステム構築ツール「intra-mart(イントラマート)」を提供しているが、このクラウドサービス化を目指している。イントラマートには既にパートナー企業が200社ぐらいあり、イントラマートの上で様々な業務アプリケーションが使われている。これを発展させて、共存共栄型のコミュニティークラウドを作れるのは当社ならではの特徴だ。

日本IBM クラウド・コンピューティング事業クラウド事業企画部長
三崎文敬(みさき ふみたか)氏
「クラウドでITサービスの工業化進める」日本IBM三崎氏 | 日経 xTECH(クロステック)
A1
クラウド」とは、一般消費者向けのインターネットサービスに影響を受けた、消費とデリバリー(提供)の新しいモデルだ。要素技術としては、仮想化・自動化・標準化によって実現する。IBMの考え方は、米NIST(国立標準技術研究所)が策定を進めているクラウド・コンピューティングの定義にかなり近い。
IBMはこの3つのうち、仮想化よりも「自動化・標準化」という点を強調している。逆に言えば、これまでコンピュータを使ったIT(情報技術)サービスのデリバリーは、ほかの工業製品などの提供と比べて、あまりにも自動化・標準化が進んでいなかった。クラウドは「ITサービスデリバリーの工業化」だと位置づけており、そこを追求するからこそ価値が出せると考える。

A2
クラウドにはいくつかの種類がある。「プライベート・クラウド」「パブリック・クラウド」、これらを組み合わせた「ハイブリッド・クラウド」がある。
IBMの強みは、顧客企業の業務に応じて、プライベート、パブリック、ハイブリッドのすべてのパターンに対応できることだ。IBMは全世界で多くのアウトソーシング案件を受託している。この豊富な経験から、稼働率・ピーク性などの特性を見て、どういう業務・アプリケーションソフトでクラウドが効果を発揮しやすいかという「スイートスポット」を熟知している。IBMが過去40年来、メーンフレームで培った仮想化・自動化・標準化の技術的蓄積も、優位点だと考えている。
クラウドはすべての局面でコスト削減や効率化のために有効だとは限らない。例えば、ほかのクラウド関連サービス提供企業の中には、パブリック・クラウドしか提供していないところがある。一般には、パブリック・クラウドは安いだろうというイメージがあるかも知れない。しかし、例えば米Google(グーグル)のメールサービス「Gmailジーメール)」はユーザー数と利用期間に比例した課金体系になっている。当然、ある一定の損益分岐点を超えると、従来のコストよりも割高になる。こうした点も念頭に置かなければ、クラウドは効果を発揮できない。
企業内には既存情報システムが存在して、一定のエコシステム(生態系)がある。それとの連携も考えないといけない。(パブリック・クラウド一辺倒ではなく)プライベート・クラウドの採用を検討したほうが、サービスの標準化を進めやすいケースだってあり得る。
IBMとしては、きちんと技術のロードマップを示して、市場を育てることを重視している。「スイートスポット」に留意すれば、クラウドは今後大きな付加価値を生む可能性がある。そうなる前に(ユーザー企業の経営陣の間で)過度な期待が広がって、それが急に冷めてしまうようなことになれば、コンピュータ業界は自分たちで市場をつぶしてしまうことになると思う。

大場章弘(おおば あきひろ)氏
マイクロソフト 執行役 デベロッパー&プラットフォーム統括本部長
「次世代Officeはクラウド上で動く」マイクロソフト大場氏 | 日経 xTECH(クロステック)
A1
インターネットの向こう側にあるものを活用してメリットを享受すること。
A2
既存システム・ソフトウエアとのシームレスな連携。
マイクロソフトが提供するクラウドサービスは大きく分けて2つの分野がある。1つは「Azure(アジュール)」ブランドのプラットフォーム分野、もう1つは「BPOS(Business Productivity Online Standard Suiteの略)」で、Office(オフィス)などある程度完成したパッケージソフトの分野だ。
アジュールの優位点として言えることは2つある。1つ目は、既存の情報システムとの間でシームレスな連携ができるということだ。今、企業のCIO(最高情報責任者)にとって「設置型」か「クラウド」かという二者択一を迫られても難しいだろう。アジュールが提供する新しいクラウド環境は、顧客企業が過去に投資し、今も保守・運用している既存システムとクラウドとの間を、シームレスにつなげることを念頭に置いている。具体的な製品名で言えば、(設置型の)Windows Serverと(クラウド型の)Windows Azure、データペースとしては(設置型の)SQL Serverと(クラウド型の)SQL Azureといったふうに、シームレスな環境を提供できる。
もう1つのアジュールのメリットは開発者にとっての使い勝手だ。我々はVisual Studioというシステム開発者向けの製品を提供することで、設置型のシステムもクラウド型のシステムも両方シームレスに開発できる状況を用意する。設置型とクラウド型の両者で共通の開発基盤があるということをアピールしたい。
次にBPOSの優位点については、2010年に出す「Office 2010」という製品(関連記事)が我々の戦略を端的に表している。Officeにはもちろん、Excel(エクセル)やWord(ワード)などが含まれる。パソコンの中に入れて使われている「リッチ・クライアント・ソフトウエア」の代表格のようなものだ。
そのOfficeが今年は、(パソコン用、サーバー用に次ぐ)クラウド用という3つ目のプラットフォームを対象にリリースされる。今後は、パソコンにインストールしなくても、ウェブブラウザー上でクラウドのサービスとしてエクセルやワード、PowerPoint(パワーポイント)が動くということだ。クラウドでは一部の機能は制限されるが、今までパソコンで使っていた感覚に近い感覚でエクセルなどのソフトを使えるようにする。これは我々の強みになる

セールスフォース・ドットコム 代表取締役社長
宇陀栄次(うだ えいじ)氏
「他社と違い、クラウドの料金体系を明示している」セールスフォース宇陀社長 | 日経 xTECH(クロステック)
A1
一般消費者向けのウェブ技術を、法人向けに価格と品質を明示して提供すること。
当社のサービスは、日本政府の「エコポイント」や「定額給付金」のための業務システムに利用された。これらは、クラウド・コンピューティングになじみやすい用途だと考えている。もし機器に投資をして保有したら、イベントやキャンペーンが終わった後にどうするかという問題が残る。
逆に言えば、当社は、すべての法人向け情報システムがクラウドになるとは考えていない。保有したほうが良いケースも当然ある。

A2
全世界で6万7900社の顧客がいるという実績がある。バージョンアップも年3回と頻繁にやっている。価格体系も明示している。
料金体系も明示してウェブサイトなどに載せているのも優位点だ。利用実績とバージョンアップと料金体系の3つがすべてそろっているのは、他社ではないのではないか。

グーグル エンタープライズ プロダクト マーケティング マネージャー
藤井彰人(ふじい あきひと)氏
「クラウドならではのイノベーション起こす」グーグル藤井氏 | 日経 xTECH(クロステック)

A1
グーグルは、当社の電子メールサービスのGmailジーメール)を使ったり、写真編集・共有サービスのPicasa(ピカサ)を使ったり、他社ならソーシャル・ネットワーキング・サービスmixiミクシィ)を使ったり、そういう形で、インターネット上からサービスを受けているものであれば基本的に「クラウド」だと定義している。
他社の定義では、仮想化の延長線上にあるものだとか、サーバーの所在・保有がどうのこうのとか、データセンターでどうのこうのとか、そういうことが言われることがある。しかし、我々の認識は違っている。とても簡単に、インターネットを経由して受けるサービスを、すべてクラウドと言っている。ただし、インターネットを経由して受けるサービスであっても、リソースの制約を受けてスケーラブル(柔軟に拡張できる)ではないものは、クラウドとは呼べない。
クラウド・コンピューティングと言えば、巨大なデータセンター専用ハードウエアと、これを支えるインフラ技術というところばかりが注目されるが、我々の考えは少し違う。クラウドならではのイノベーションがどこにあるのかというところにフォーカスしている。例えば、電子メールをやり取りする場合。2004年4月にジーメールが出るまで、電子メールという技術自体は「枯れた技術」だと思われていた。だが、ジーメールでは無料で1人1ギガバイト(当時、2010年2月時点では7ギガバイト、ギガは10億)分を使えるという大容量など、クラウドならではのイノベーション(革新)を起こせた。
ジーメールやGoogle Apps(グーグル・アップス、法人向けのグループウエアサービス)を使えば、予算を作るための表計算データや、プレゼンテーションソフトのデータを世界中で共有して、関係者みんなで編集できる。従来のやり方では、多数の関係者が作成にかかわるこうしたデータは、全員がすぐに編集・閲覧できなかったり、だれがどう修正したか分からなくなったりする問題があった。何気ないことだが、これもクラウドならではのイノベーションだ。

A2
先に述べたように、クラウドならではのイノベーションを提供しているのが一番の優位点だ。
(グーグルは一般消費者向けサービスが主力だが)クラウドにコンシューマー(一般消費者)向け、エンタープライズ(法人)向けの区別はないと考えている。一般消費者と法人の要求事項は違うと言われるが、我々はそうは思わない。現実に、パソコンが登場した時に「こんな信頼性が低いものは法人ではとても使えない」と言われたが、今では企業内に普及している。通信プロトコルの「TCP/IP」もそうだった。
コンシューマー向けの技術は、利用者の規模がある程度まで達した時に、エンタープライズのほうで使われるようになって、そこで磨かれて、また一般消費者向けに戻ってくるものだ。グーグルのコンシューマー向け技術を「エンタープライズ向けとは違う」と言って切り捨てると、痛い目に遭うのではないかと思う。

日本の大手IT企業(NTTデータ、日立、NEC、富士通、日本IBMも)の捉え方は大体同じですね。
もともとエンタプライズ向けの会社だし、特に大企業を中心としたビジネスですので慎重さが何よりってことですか。
エンタプライズ向けの会社はプライベートクラウドという名を付けて、これまで分散されて利用されてきた情報システムをまとめて、筺体を一つにしてコスト削減しましょうという話です。
その中でもIBM「ユーザー企業の経営陣の間で)過度な期待が広がって、それが急に冷めてしまうようなことになれば、コンピュータ業界は自分たちで市場をつぶしてしまうことになると思う。」は面白い意見だ。やはりIBMというのはメッセージの出し方が上手だ。
外資系ではやはりマイクロソフトよりグーグルに勢いを感じますね。
クラウドにコンシューマー(一般消費者)向け、エンタープライズ(法人)向けの区別はないと考えている。一般消費者と法人の要求事項は違うと言われるが、我々はそうは思わない。コンシューマー向けの技術は、利用者の規模がある程度まで達した時に、エンタープライズのほうで使われるようになって、そこで磨かれて、また一般消費者向けに戻ってくるものだ。グーグルのコンシューマー向け技術を「エンタープライズ向けとは違う」と言って切り捨てると、痛い目に遭うのではないかと思う。」
あまりクラウドという言葉に踊らされてはいけません。