地銀勘定系共同センター化すすむ

地銀最大手の横浜銀行は2010年1月4日、勘定系システムなどを刷新し、共同利用型の新システム「MEJAR」を全面稼働させた。MEJARは、横浜銀行北陸銀行北海道銀行の3行で共同開発したシステムで、横浜銀行が第一号ユーザーである。
 MEJARのシステム開発についてはNTTデータに委託した。同社製の勘定系アプリケーション「BeSTA」を富士通メインフレームで動作させている。開発工数は3行合計で約2万人月に達したとみられる。工数としては、地銀の共同システムの中で最大級の規模である。
 横浜銀行はシステム共同化により、コスト削減とサービス向上などを目指す。
日立製作所は2010年1月4日、栃木銀行が勘定系システムの共同利用サービス「NEXTBASE」を同日から利用開始したと発表した。NEXTBASEの利用は、徳島銀行香川銀行北日本銀行トマト銀行高知銀行に続き栃木銀行で6行目となる。
 NEXTBASEの利用により、栃木銀行は新商品や新サービスの迅速な提供、ITコストの削減、災害対策の強化を目指す。
 NEXTBASEは中核にNTTデータの勘定系パッケージ「BeSTA」を採用、同ソフトを日立製メインフレームで動作させている。第二地銀向けの共同センターとしては最大陣営であり、稼働予定の中京銀行を含めると採用行は7行になる。
日本ユニシスは2010年1月4日、福岡県の筑邦銀行が、Windowsで動作するユニシス製の勘定系システム「BankVision」の利用を始めたと発表した。BankVisionの利用開始は、2007年5月の百五銀行、2009年1月の十八銀行に続いて3行目となる。
 筑邦銀行十八銀行佐賀銀行と3行で、BankVisionベースの勘定系システムを共同利用する。3行のうち残る佐賀銀行は、この5月の利用開始を予定している。
陣営によってシステム共同化の目的は異なるが、その一つに維持コストの削減があるのは間違いない。そのコストに直結する要素は三つある。「広さ」と「深さ」、それに共同化に参加する地銀の「数」だ。

「広さ」は共同化の対象範囲を指す。勘定系だけを共同化するのか、情報系や対外系まで含めるか。ATMや営業店システムはどうかなどだ。  「深さ」は、データセンターとハードウエア、ソフトウエアのどこまでを共用しているかを意味する。一つのデータセンターに参加行のハードを並べているならデータセンターの共同化。同一のハードを論理分割して各行のアプリケーションを搭載する形態は、データセンターとハードの共同化だ。いずれもアプリケーションは同一仕様のものを各行が別々に動かす。

実際に動かすアプリケーションまで共用すると、ソフトの共同化となる。もちろん各トランザクションは銀行ごとに振り分ける。「マルチバンク方式」と呼ばれる機能で、銀行固有の「銀行コード」を用いて実現する。ソフトまで共同化すると、OSやミドルウエアの購入・維持費用も減らせる。

横浜銀は深さと広さの両方を追求
 地銀の共同化は、陣営によって広さと深さ、数に違いがある(図2)。深さと数で先行するのが「地銀共同センター」。中核に採用するNTTデータの勘定系パッケージ「BeSTA」はマルチバンク方式に対応している。第1号ユーザーである京都銀の勘定系の維持コストは、年間40億円から半減した。情報系などを含めた同行のIT投資総額は70億円強だったので、全体から見ると3割減った計算だ。2番目に利用を始めた千葉興業銀行の栗原隆浩経営企画部IT企画室長も「勘定系の維持コストは、ほぼ半減した」と証言する。


図2●主なシステム共同化陣営における「広さ」と「深さ」

広さが際立つのは、福岡銀行広島銀行などによる「共同利用型基幹システム」や三菱東京UFJ銀行が主導する「Chance」。昨年1月にChanceの第1号ユーザーとなった常陽銀行は「共同化によるIT投資全体のコスト削減効果は3割程度」(鶴田明システム部長)という。福岡銀もほぼ同程度だ。

 残る要素の「数」は、論理的には多いほどコスト削減効果が大きいはず。ただ、地銀の例では数と効果の関係は見えない。実はシステム共同化は、ITベンダーが主導するタイプと銀行が主導するタイプの二つに分かれる。前者の場合、利用料はITベンダーがあらかじめ採算ラインを計算して決め、参加行数に連動しての増減はない。一方で銀行主導タイプでは、現時点で参加行数に大きな差がない。これが数と効果の関係が見えない理由である。
 数年前から稼働している共同化陣営は、広さか深さのどちらかを優先していた。共同化の難易度が、広さや深さに比例するためだ。これに対して地銀最大手の横浜銀行北陸銀行北海道銀行と進める「MEJAR」は、「広さと深さの両方を追求する」(米田誠一取締役執行役員MEJARオフィサー)。2010年1月に稼働を予定するMEJARは後発組なので、共同化による効果の最大化を狙うわけだ。
 具体的には、広さとして、勘定系や情報系、対外系に加えて、融資支援、口座振替などの周辺システム、ATMや営業店端末に搭載するソフトの共同開発まで踏み込む(図3)。ATMや営業店端末といったハードの共同調達にも踏み切る。深さの面では、地銀共同センターで実績のあるBeSTAを勘定系に採用。ソフトまで共同化する。開発工数は「3行の合計で2万人月」(米田取締役)。地銀のシステム共同化では過去最大級である。



図3●横浜銀など3行のシステム共同化「MEJAR」の論理構成

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進む地銀の共同センター化。ネットワークの信頼性と高速化が実現した今当然の流れか。金融機関は装置産業であり、記録を正確に保存すること、伝えること、同質のサービスをどこでも提供することが求められる。そこにITは欠かせない。だが、システムを共同化させたら、他の金融機関との同質化も進む。だから地域が重ならない、顧客が重ならない地銀での連携が進む。だが結局のところ、システム以外の人的な部分で地域性を出し特色を出していくとの思惑かもしれないが、そもそも金融機関に地域性は必要なのだろうか。確かにメガバンクでは、地域の一番企業でも、東京の大企業に比べたらその企業に対する熱意は下がるかもしれないが、実際の支店レベルでは大切な顧客であることは変わらない。小売、専門店は大手に収れんされつつある。そう地方においても、首都圏においても生活様式は日本ではそれほど変わらないのだと思う。さて、これからも地銀は生き残るのだろうか。