楽天が物流に参入。その戦略とは?

vsアマゾン、物流で挑む楽天の算盤勘定:日経ビジネスオンライン
楽天が物流インフラの整備に本腰を入れる。

 約8000坪の倉庫スペースを千葉県市川市塩浜に確保した。物流不動産開発のプロロジス(東京都港区)が所有する汎用型物流施設「プロロジスパーク市川I」の4階で、アマゾンジャパン(東京都渋谷区)の「アマゾン市川フルフィルメントセンター」とは目と鼻の先だ。

 今年3月に100%出資で設立した物流子会社の楽天物流が新センターの運営に当たる。同社は5月中に倉庫業および貨物利用運送業の申請を済ませ、仮想商店街楽天市場」の出店者を対象とした物流事業を開始する。

  • これまで楽天は、物流機能をアウトソーシングやアライアンスで手当てしてきた。自社で在庫を抱えることも避けてきた。
  • 2008年5月には楽天市場の出店者のフルフィルメント(注文充足)を代行する「楽天物流サービス」を開始したが、その運営は楽天と業務提携を結んだ全国各地の協力物流会社への委託。
  • 自社で通販事業を運営する楽天ブックスにしても、出荷処理や在庫の所有は取次大手の日本出版販売(日販)に頼っている
  • 新センターに楽天ブックスの物流機能を移管し、売れ筋の書籍に関しては楽天自身で在庫を所有する形に改める。
  • 首都圏では、注文を受けたその日のうちに消費者に商品を届ける当日配送を年内にも開始。
  • 今後は自社センターを、大阪をはじめ他の主要都市にも展開し、当日配送エリアを拡大していく計画。
  • さらには楽天市場に出店する約3万2000店の通販会社と全国の消費者を結ぶ、大規模なBtoC(企業−消費者間)物流のネットワークを整備する。
  • アマゾンをはじめ従来のBtoC物流は巨大な物流センターに在庫を集め、自動化設備を駆使して受注から出荷までの作業を集中処理する体制を取ってきた。
  • しかし、楽天市場の出店者は全国に分散している。しかも、地方の名産品やこだわりのあるニッチ商品を売り物とするロングテール型の小規模店が多い。そのためアマゾン流の中央集権型の物流インフラが、楽天市場には馴染まない。そこで従来とは全く異なるアプローチを採ることにした。

 

  • 大都市の大規模センターとは別に、ネット通販専用の中規模センターを全国に配置し、各拠点間を幹線輸送便で結ぶ分散型の物流ネットワークを整備する。その概要は以下の通りだ。
  • まずネット通販会社を規模別に3つに区分する。楽天ブックスを含む大規模店は消費地の大型センターに在庫を置いて、楽天物流がフルフィルメントを処理する。
  • 中小通販は各地元の中規模センターに在庫を集約する。施設は各地の提携物流会社が所有する既存倉庫を使う。現場運営も提携先に委託するが、情報システムやオペレーションは楽天物流が設計した標準に統一する。
  • 各地方のセンターに集めた商品を幹線輸送便に混載して消費地の大規模センターに運び、そこで書籍や他の商品を顧客ごとに梱包をまとめて一括して納品する。
  • 狙いは宅配料金の削減だ。「新たな仕組みを作ることでネット通販の配送費を現状の5分の1程度まで抑制することができる」と、楽天の武田和徳COO(最高執行責任者)常務執行役員はぶち上げる。
  • 楽天出店者の商品を楽天ブックスが販売する書籍やCD/DVDと同梱すれば宅配便の利用個数が減る。単純にいえば5つの商品を1つの箱に収めれば、宅配便料金は5分の1になる。
  • その結果、地方の中小通販会社の不利が解消されるだけでなく、配送費の大幅な低減によって新たな通販需要を喚起できる。
  • 現在、通販1件当たりの受注金額は平均1万1740円、中央値が7941円で高止まりしている(日本通信販売協会調べ、2008年度)。楽天市場の1回当たりの購入金額も7000円前後で推移している。
  • 単価の安い商品は物流コスト負けしてしまうため、通販ではこれまで扱いにくかった。しかし、配送料が大きく下がれば単価が1000〜2000円の商品でも十分ペイするようになる。ネット通販の裾野が広がり、BtoC物流サービスの新たな需要も開拓できる。
  • 日本の通信販売市場は2008年度で約8兆円に達し、販売チャネルとして既に百貨店やコンビニエンスストアを追い抜いたとされる。今後もネット通販の拡大によって成長していくことが見込まれている。
  • ただし、通販会社の対売上高物流コスト比率は2008年度で12.9%に上っている(日本ロジスティクスシステム協会調べ)。全業種中、最も物流コストが高い。
  • 日本語版のツイッターを運営するデジタルガレージ佐藤守哉上級執行役員は「ネット通販もコモディティ化が進んできた。差異化のためにはネットマーケティングや電子決済などのサイバーな機能だけでなく、それをリアルな店舗や物流と組み合わせるハイブリッド化が必要になっている」という。
  • 今年10月、同社は日本通運との合弁で、ネット通販に必要な物流機能を、決済やマーケティング機能と一括して提供するフルフィルメント支援会社を設立する。
  • 同社は従来からネット通販の商品をコンビニの店舗で受け渡すための物流サービスを手がけてきたが、日通との提携によって物流サービスの領域をさらに拡大する。
  • 楽天も手をこまぬいているわけにはいかない。それが同社を「持たざる経営」から転換させた。リスクのある自社物流および在庫所有へと走らせた。
  • 楽天の目指す分散型のBtoC物流は世界にもまだ例を見ない。それでも楽天の武田COOは「それを日本で成功させて、その山頂からグローバル市場を眺めることで、またいろいろなことが見えてくるはずだ」と意欲を燃やしている。