サイゼリヤのモップ

面白い記事があったのでそのまま転記。
12/21日経 経営の視点

都心の店舗の時給は1200円前後で、ファミリーレストランとしては最高水準。時給引き下げは一度もなく、じわじわと上がっている。さぞ、客単価の高いレストランかと思いきや、その正体は500円未満の
メニューが大半の低価格ファミレス、サイゼリヤだ。利益を削っているふうでもない。2009年8月期の営業利益率は10%強。ファミレス業界でダントツの数字をたたき出す。

サイゼリアが心がけているのは、「生産性の向上」。企業なら当然の基本動作だが、その徹底度合いが圧巻だ。すべての業務を原理原則に立ち返って日々、考える。例えば店内清掃。掃除とは何か、なぜ掃除機を使うのか。科学的に解析を交えて考え抜く。行き着いたのが原始的なモップだった。床のゴミやホコリを取り除くのが掃除だから空気まで吸い上げる必要はない。しかも掃除機は吸い取り口が小さく、何度もひじを動かす動作が伴う。モップだと歩いて押すだけ。ひじを動かす回数は大幅に減る。まずは30センチ幅のモップを試したら、同じ通路を往復何回もして掃除機と歩数はあまり変わらなかった。そこで120センチ幅にしたら、ひとふきで済んだ。掃除機で1時間かかる作業が30分に。生産性は2倍に跳ね上がり、作業は楽になった。こんな小さな積み重ねが圧倒的なコスト競争力を生む。生産性向上を軸に仕事を組み立てると、とるべき戦略もおのずから見えてくる。例えば期間限定の値引きはしない。 急激な客数増で店舗作業が乱れることを避けるためだ。それでも節約志向の客が店に押し掛け、11月の既存店の売上高は前年比13%も増えた。

社員の大半は理科系出身。常識を疑い、科学的考える習慣が染み付いている。例えばパスタはお湯でゆでるのが当たり前だが、水で”ゆでる”ことも考えた。水に長時間つけたらやわらかくなったが、前後の調理作業にしわ寄せがきて生産性に寄与せず断念した。レストランに必須の皿洗いですら、なくすことができないか考える。なぜ油は皿にくっつくのか。皿の素材を工夫できないか。洗剤は本当に必要なのか。基本原理までさかのぼって作業を一つ一つ洗い直す。

科学的だからといって先端技術に安易に飛びつくわけではない。省電力に役に立つ発光ダイオード(LED)照明もそうだ。「電灯を変える前にやるべきことは山ほどある」 調理場近くの吸排気口もその一つ。安全基準に照らし、本当に調理に必要な酸素量を計算する。 無駄な暖気がなくなれば冷房費が浮く。

自社農場で、加工しやすいレタスやトマトの品種改良にも取り組む。四季が逆転する南半球のオーストラリアに工場を構えるのも、年間を通して食材を安定的に確保するためだ。

もちろん経営に死角がないわけではない。
前期には海外の検査をすり抜けて微量の有機化合物が食材に混入し、客足が一時遠のいた。それでも得意の科学の目を光らせる経営で、外食不振の逆風に立ち向かう。

デフレに嘆き、立ち尽くすだけでは突破口は見えてこない。サイゼリヤのように足元の常識を疑ってみる経営が今、必要なのだ。